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歯周病(歯槽膿漏)治療と全身性疾患

歯周病と糖尿病の関連を探る

監修:岡山大学 歯学部 保存学第二講座 教授 村山洋二

歯周病患者では、心血管疾患や糖尿病などの全身疾患の発症リスクが高いことが知られている。
一方、最近では全身疾患があればどうして歯周病が進展しやすくなるかの根拠が明らかにされつつあり、注目を集めている。本鼎談では、特に歯周病と糖尿病の関連にスポットを当て、疫学的データを概括するとともに、その背景にある機序について考察した。また、両疾患の関連を認識したうえでの、今後の歯周病診療のあり方を探った。出席者は、このテーマに関する日米のオピニオンリーダー3人で、司会を村山洋二氏にお願いした。なお、本鼎談は2000年9月17〜20日の4日間、ホノルル(ハワイ)で開催された「第86回米国歯周病学会併催日本歯周病学会2000年記念大会」の特別企画(サンスター株式会社主催)として企画、実施された。

ニューヨーク州立大学バッファロー校
歯学部 口腔生物学 教授
Robert J.Geneco氏

ニューヨーク州立大学バッファロー校
歯学部 口腔生物学 臨床研究所長
Sara G.Grossi氏

司会:岡山大学歯学部
保存学第二講座 教授
村山洋二氏

糖尿病と歯周病は高頻度に合併
村山:歯周病と糖尿病の関連について、以前から糖尿病患者は歯周病への罹患率の高いことが指摘されていました。その根拠になる最初のデータは、ここにおられるGenco先生らによる有名なピマインデイアンを対象とした疫学調査から得られたわけです。本日のお話の前提として、まずGenco先生に、その調査の槻要をご紹介いただきたいと思います。

Genco:ピマインデイアンはアメリカの原住民で、現在ではアリゾナ州のフェニックスに近いピマの特別居留地に集団で生活しています。このピマインデイアンは2型糖尿病の罹患率がきわめて高くて、約40%にも達しています。 また、彼らは重症の歯周病の罹患率も高くて、歯のない人が非常に多いことでも知られています。そこで、われわれは糖尿病と歯周病には何らかの関連があるかもしれないと思い、1980年代に大規模な疫学調査を開始したわけです。
われわれの調査の対象となったのは、15歳から54歳までの計1,342名。糖化ヘモグロビン(HbA1c)を指標に糖尿病の有無を調べるとともに、アッタチメントロスおよび歯槽における骨頂の高さを測ることで、歯周組織の障害程度を評価しました。

(図1)
糖尿病者と非糖尿者における歯周病の重症度比較
(ピマインディアンを対象に検討)
文献:Nelson et al.1990
図1に示すのがその結果ですが、対象を糖尿病群と非糖尿病群に分けると、前者は後者に比較して、どのような年齢層でも歯周組織の障害程度がきわめて大きいという結果でした。

糖尿病が歯周病の発症リスクになる

村山:糖尿病と歯周病がこれほど高頻度に合併するということは、どちらかがもう一方の原因になるというか、発症のリスクになっているということが准測されます。 あるいは、双方がお互いにリスクになっているかもしれない。そのあたりのことについては、どのようにお考えですか。

Genco:それについてもわれわれは、2,273名のピマインデイアンを対象に検討しています。われわれは対象を糖尿病群と非糖尿病群とに分け、2年毎6年間にわたり、歯周組級の変化について追跡しました。その方法は、「この2年間で歯周病が発症、もしくは進行したと思うか」という質問を全員に投げかけ、それに対し「はい」と答えた者の数をカウントするというものです。 その結果は、糖尿病群では「はい」と答えた者の割合は、年間1,000名当たり76名に及びました。非糖尿病群では28名ですから、これに比較すると実に2.5倍です。 つまり、糖尿病群では非糖尿病群に比べて、2.5倍歯周病の発症するリスクが高いことになります。私はこのデータは、糖尿病は歯周病に先立って存在し、歯周病の発症、進行の原因になり得ることを示唆していると思います。

炎症性サイトカインが歯周組繊を破壊

村山:糖尿病が歯周病の原因になるということは、言い換えれば、糖尿病患者は歯周病になりやすい条件というか、資質を備えているということになりますね。このメカニズムについては、どのように考えられますか。

Genco:このことについては、動物実験の成績がいろいろな示唆を与えてくれています。たとえばコロンビア大学のグループは、糖尿病では高血糖のために、血中タンパク質が糖化されるということに注目しています。 糖化タンパク質はマクロファージを刺激し、炎症性サイトカイン類を過剰に産生させ、それが歯周組織を破壊するというわけです。 彼らは糖尿病モデルの動物を使い、タンパク質の糖化を抑えることで歯周組織の破壊が防げることを、クリアカットに示してみせました。 また最近、ある研究者は炎症性サイトカインの産生については、それを過剰に産生しやすいような遺伝的素因が存在するかもしれないと報告しています。 もしそうだとすると、こうした素因をもった人が糖尿病になれば、同時に歯周病にもなりやすいということになります。 糖尿病患者では外傷が治りにくいということは、よく経験します。これは、糖尿病患者では抗体産生能力が低いなど、全般的に免疫機能が低下しているためです。また、糖尿病患者では、外傷部の治癒に必要な線維芽細胞やコラーゲンの形成、増殖などの能力も低下しています。こうしたことも、糖尿病患者が歯周病を発症しやすい要因といえるかもしれません。

村山:高血糖状態では、糖化タンパク質のために免疫機能が修飾されており、それが最終的に組織傷害に結びつくことは、一般的な話として、よく理解できます。われわれは、このことを直接、歯周組織の歯根膜細胞でも確かめてみました。その結果、概略以下のような結論が得られました。 高血糖状態では歯根膜細胞表面のVLA-5(接着分子の一種)受容体の発現が非常に高まるため、線維組織との結びつきが強まって、結局、歯根膜細胞の可動性は低下します。 一方、低血糖状態が持続した場合は、VLA-5受容体の発現は減少するため、歯根膜細胞と線維組織との結びつきが弱まって、結局、歯根膜細胞は細胞死を起こすようになります。いずれにしても、歯根膜細胞の機能は低下するので、歯周組織は傷害されるということになります(図2)。

(図2)
血糖コントロール状態が歯根膜組識に及ぽす影響
歯周病も糖尿病に影響を与える

村山:最近、糖尿病が歯周病に影響するということに加えて、逆に歯周病も糖尿病に影響するいうことが報告されて、注目を集めています。Genco先生は、このことについてもピマインデイアンを対象として検討されておられますね。

Genco:はい。ピマインデイアンの糖尿病患者を歯周病のあるものとない者とに分けて、2年毎に血糖コントロール状態がどう変化するか追跡したのです。 その結果、歯周病のある者ほど血糖コントロール状態が悪化している者が多く、歯周病は糖尿病に明らかにマイナスの影響があるということが認められました。

村山:Grossi先生らは、糖尿病と歯周病の合併例に対して抗生剤投与による歯周病の治療を行ったところ、歯周病だけではなく血糖コントロール状態も改善したということを報告されています。このことも、歯周病が糖尿病に影響するということを証明していると思いますが、Grossi先生、まず、先生方の報告についてご紹介いただけませんか。

Grossi:われわれは、2型糖尿病と重度の歯周炎を併せ持つピマインデイアン113名を、テトラサイクリン系抗生剤であるドキシサイクリンでの治療を含むを含む群など、5通りの治療を行う群に無作為に割付けました。 そして、3、6、12カ月後に歯周炎および血糖コントロールの改善効果を評価して、比較検討しました。歯周炎および血糖コントロール状態のベースラインは、全群でほぼ同等でした。 結果は、歯周炎のほうは、どの群でも治療3カ月後から同程度に改善されていました。 しかし、血糖コントロールのほうは、歯肉縁下掻爬(スーリング、ルートプレーニングなど)の物理的治療のみを行った2群では有意な改善効果は得られませんでしたが、物理的治療とともにドキシサイクリンによる治療を行った3群では、有意な改善効果が得られました(図3)。

(図3)
歯周炎の治療による血糖コントロールヘの影響
文献:Grossi et al.1997
つまり、このことは、感染症としての歯周炎が、血糖コントロール状態にも何らかの影響を与えているということを示唆していると思います。

炎症性サイトカインがインスリン抵抗性を惹起

村山:歯周病が血糖コントロールに影響を与えるという、そのメカニズムを先生は、どのように考えておられますか。

Grossi:歯周病は歯周組織に常在するグラム陰性菌(p.gingivalisなど)の感染によって起こりますが、感染による炎症性産物は血流などを介して全身に波及し、その結果、血糖コントロールにも影響が及ぶのだと思います。 つまり、感染が成立すると、病原菌からはエンドトキシンであるLPS(リポ多糖類)が放出され、これが歯周組識を構成するタンパク質と結合して、その結合体がさらに単球を活性化します。活性化した単球からはTNF-αなどのサイトカイン類が過剰に産生され、これが全身に波及すると、筋肉細胞や脂肪細胞などに作用して、インスリン抵抗性をもたらすと思われます。

村山:TNF-αはインスリン標的細胞内におけるインスリン信号を阻害し、細胞表面のGLUT-4(糖輸送担体)の発現を抑制することでインスリン抵抗性をもたらすという機序については、すでに詳しく解明されていますね。 われわれは、ドキシサイクリンに作用が類似しているミノサイクリンの軟膏を用いて歯周炎を治療し、やはり血糖コントロールに及ぼす影響について検討したことがあります。対象は13名と小規模な検討でしたが、4週間の治療後は全員が歯周ポケット内の病原菌が激減するとともに、血中TNF-αレベル、HbA1cレベルおよびインスリン抵抗性を示す指数も低下するという結果でした(文献2:Nishimura1998)。

歯周病と糖尿病の関連のより深い認識を 村山:歯周病と糖尿病との間にこれほど密接な関連があるとなると、今後のわれわれの歯周病治療のあり方についても、見直しが必要になってくるかと思います。 糖尿病はマルチファクター症候群の1つで、心血管障害の発症などに大きく関わっており、しかも、世界中におけるその患者数は膨大です。 したがって、歯周病治療で糖尿病が改善できるとなると、それは世界中の人々の健康の向上に大きなインパクトを与えることができるわけです。われわれ歯科医は、まず、このことについてもっと認識する必要があると思うのですが、Genco先生はどのようにお考えですか。

Genco:おっしゃる通りだと思います。実は米国歯周病学会では、歯周病治療のこのような重要性をもっと広い歯科医層、一般医師層、および大衆にアピールするため、種々の啓蒙活動を開始したところです。たとえば2001年、歯周病学会では歯周病と糖尿病を含む全身疾患との関連をテーマにシンポジウムを開催する予定です。また、米国糖尿病学会の協力を得て、糖尿病者における歯周病の管理のためのガイドライン作りも始めています。

村山:実際に患者に接するときの心構えということでは、どのようにお考えですか。

Genco:糖尿病の管理で一番の問題点は、早期発見が難しいことなんです。 糖尿病の早期段階では自覚症状が乏しいものですから、患者は自分では糖尿病だと気付きませんし、何かの折りに医師に気付かされても、治療を受けないですましていることが多いのですね。しかし、その間にどんどん糖尿病は進展し、合併症も発症してしまいます。

われわれ歯科医は、糖尿病を早期発見するという点では、きわめて有利な立場にいると思います。 なぜなら、歯周病でわれわれ歯科医を受診する患者の中には、自らが糖尿病であることに気付いていない人が非常に多いからです。ですから、歯科医は歯周病患者に出会ったら必ず、渇きはないか、多飲多食はないか、多尿はないかなど、糖尿病の初期の症候についても尋ねて、糖尿病の早期発見に努めるべきです。 それが、この問題に関する歯科医の、最初の貢献になると思います。

村山:この問題については、糖尿病を診療する立場にある一般内科医との協力が欠かせませんね。この協力体制ということではどうでしょうか。

Grossi:殆念ながら、この問題に対する一般医師の理解は必ずしも十分ではありませんし、協力体制も十分ではありません。しかし、この問題への取り組みは、今まさに始まったばかりなのです。 これから、専門家たちがアプローチを強めていけば、かならず状況は改善されるはずですし、そうしなければならないと思っています。同様に、看護婦などのコメディカルスタッフ、あるいは医学部の学生などへのアプローチも強めていかなければならないでしょうね。

村山:本日は、学会開催中の貴重な時間を割いてお集まりいただき、ありがとうございました。

〈2001.3.21掲載〉