HOME > 歯周病(歯槽膿漏)は治せる。 > 歯周病(歯槽膿漏)治療と全身性疾患

歯周病(歯槽膿漏)治療と全身性疾患

歯周病と糖尿病

監修:岡山大学 歯学部保存学第二講座 教授村山洋二

糖尿病では歯周病を合併する率が高いことは、以前から指摘されてきた。これに加え最近では、歯周病が糖尿病に悪影響を及ぽすことも報告され、話題を集めている。ニューヨーク州立大学バッファロー校のRobert J.Genco氏は、糖尿病と歯周病の関連について最初に注目した1人であり、現在も精力的に研究を続けている。
同氏に、この領域におけるこれまでの主要な研究成果を紹介していただくとともに、これからの展望についても語っていただいた。

Robert J.Genco
ニューヨーク州立大学バッファロー校歯学部 口腔生物学教授

糖尿病者に多い重度の歯周組織の欠損

糖尿病と歯周病の関係を明らかにした最初の研究は、われわれが1980年代に行った、ピマインデイアンを対象とする大規模な疫学調査である。 アメリカ原住民であるピマインディアンは、2型糖尿病の罹患率が40%ときわめて高いことで有名である。また、彼らは重症の歯周病の罹患率が高く、歯のない者が多いことでも知られている。 そこで、われわれは両者の関連を調べるべく、1,342名のピマインデイアンを対象として、この研究を開始した。

(図1)
糖尿病者と非糖尿者における歯周病の重症度比較
(ピマインディアンを対象に検討)
図1は、対象を糖尿病者と非糖尿病者に分けたときの、歯周組織障害の度合を比較した成績である。歯周組織障害の度合は、アタッチメントロスおよび歯槽における骨頂の高さを測定することで評価した。糖尿病者は非糖尿病者に比較して、15〜54歳のいずれの年代においても、歯周組織障害の度合が大きいことが示されている。

(図2)
糖尿病者における重度の歯周病
(ピマインディアン)
図2は、ある糖尿病者の歯周組織のX線写真であるが、多くの歯の周囲の組織が激しく欠損しているのが観察される。ピマインデイアン以外には、このような激しい歯周組織の欠損は、稀にしか観察されることがない。

糖尿病が歯周病の発症、進行リスクとなる
では、糖尿病と歯周病は、どちらが先に存在しているのか。糖尿病が歯周病の原因なのか、それとも歯周病が糖尿病の原因なのか。
次に、われわれはこの点について検討するため、やはりピマインディアンを対象とする長期研究を行った。

対象は15歳以上のピマインデイアン2,273名で、うち約700名は、研究開始時点において歯周病を有していなかった。
対象は糖尿病者群と非糖尿病者群に分け、2年毎6年間にわたり、歯周組織の状態の変化を観察した。方法は、「この2年間で歯周病が発症、もしくは進行したと思うか」という質問を会員に投げかけ、それに対し「はい」と答えた者の数をカウントするというもの。

図3)
糖尿病者と非糖尿病者における歯周病の発症リスク
(ピマインディアンを対象に検討)
その結果は図3に示すごとくで、糖尿病群では、「はい」と答えた者の割合は1年間に換算して1,000名当たり76名に及んだ。これは、非糖尿病者群の割合の28名に比較して、実に2.5倍という多さである。 すなわち、糖尿病者では非糖尿病者に比べて2.5倍歯周病を発症するリスクが高いことになる。また、このことは糖尿病は歯周病に先だって存在し、歯周病の発症、進行の原因となり得ることを示している。

糖化タンパク質の刺激で炎症性サイトカインを過剰に産生
歯周病は今日では、網膜症、腎障害、神経障害、末梢血管障害、大血管障害に続く、「糖尿病の第6番目の合併症」といわれている。
では、糖尿病に歯周病がこれほど多く合伴することの機序は、どのように考えればよいのだろうか。
その1つのキーワードは、「高血糖」であると思われる。高血糖状態では血中のタンパク質が糖化されており、糖化されたタンパク質はマクロファージを刺激して、炎症性サイトカインを過剰に産生させる。おそらく、このサイトカインが歯周組織を傷害し、歯周組織の欠揖を招くのであろう。

歯周病も糖尿病に影響する
糖尿病者が歯周病に罹患している場合、歯周病が糖尿病に何らかの影響を与えることはあるだろうか。
次にわれわれは、この点についても検討した。対象はやはりピマインデイアンで、糖尿病者で歯周病のある者とない者とで、2年間毎に血糖コントロールがどのように変化するかを観察した。血糖コントロールの指標としては糖化ヘモグロビン(HbA1c)を用い、これが9%を超える者の割合を比較した。

(図4)
歯周病の重篤度が糖尿病に及ぽす影響
(ピマインディアンを対象に検討)
図4がその結果であるが、重症の歯周病をもつ糖尿病者では、HbA1cが9%を超える者の割合は約40%に達した。一方、歯周病がないか軽度の者の場合は、その割合は18%であり、両者の間には、明らかに血糖コントロール状態に差が生じていることがわかった。

すなわち、糖尿病者で歯周病がある場合は、歯周病によって糖尿病も影響を受け、血糖コントロールは悪化する。

抗生物質による歯周炎の治療で血糖コントロールも改善
糖尿病と歯周病が合伴している場合、歯周病を治療すれば血糖コントロール状態は改善するだろうか。
このことに関しては、Dr.Grossiを中心にある無作為の、比較試験が行われている。彼女らは2型糖尿病と重度の歯周炎をあわせ持つ者113名を対象に、テトラサイクリン系抗生剤であるドキシサイクリンでの治療などを含む5通りの治療法を試み、3、6、および12カ月後における、その効果を比較した。試験開始時における全対象の血糖コントロール状態、および歯周ポケットの探さを示す指数は、ほぼ類似していた。

(図5)
歯周炎の治療による歯周ポケットの深さの変化
図5は、治療開始後における歯周組織の変化を示したものである。治療3カ月後から、どの治療法によっても歯周ポケットの探さは同程度に減少しており、歯周炎の改善していることが認められる。

一方、図6は治療3カ月後における血糖コントロール状態の変化を示したものである。
歯肉緑下掻爬(スケーリング、ルートプレーニングなど)の物理的治療のみを行った群では、HbA1cの低下が0.2〜0.3%であり、血糖コントロールの改善があるにはあるが、その効果は有意なものではない。しかし、物理的治療に加えてドキシサイクリンによる治療を行った群では、HbA1cは0.5〜0.9%低下しており、血糖コントロールが有意に改善していることがわかる。

すなわち、歯周炎を感染症としてとらえ治療することは、単に歯周炎だけではなく、糖尿病の治療のためにも大きく寄与することが認められる

全身への波及効果を視野に入れ歯周病を治療する必要
歯周病を感染症としてとらえ、抗菌薬による治療を行うことが、なぜ血糖コントロール状態をも改善するのであろうか。
この機序に関しては、村山洋二氏(岡山大学歯学部保存学第二講座教授)が以下のように推測している。
すなわち、歯周組織は種々のグラム陰性菌(P.gingivalisなど)の常在する場所であり、これら細菌によって全身的な影響を受けやすい。
もし、歯周組織に細菌が生息して、感染症が惹起されると、TNF-αなどの炎症性サイトカインが過剰に産生される。これら炎症性サイトカインは、インスリンの標的細胞である脂肪組織や骨格筋に作用してインスリン抵抗性をもたらし、その結果、血糖コントロールが悪化して、高血糖状態が招来される。

抗菌薬の投与は、歯周組織における感染症を沈静化し、TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を抑制する。したがって、結果的に末梢組織におけるインスリン抵抗性が取り除かれることになり、血糖コントロールが改善する(図7)。

(図7)
歯周組織の感染症と糖尿病の関係
ともあれ、今後の歯周病の治療は、単なる歯周組織の病気の治療というのではなく、全身への波及効果をも視野に入れた治療を行うことが重要になってくると思われる。

〈2001.3.19掲載〉